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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)10000号 判決 1984年3月29日

原告

疋田知三

右訴訟代理人弁護士

堀敏明

田中富雄

被告

渋沢倉庫株式会社

右代表者代表取締役

田中昌司

右訴訟代理人弁護士

加嶋昭男

斎藤宏

主文

一  原告の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 原告が被告に対し雇用契約に基づく権利を有することを確認する。

2 被告は原告に対し、昭和五六年七月以降毎月二五日限り一か月金一九万六〇〇〇円を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 第2項につき仮執行宣言。

(予備的請求)

1 被告は原告に対し金一一七六万円及びこれに対する昭和五八年四月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、東京都中央区に本店を置き、東京、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、福岡、札幌等の各都市に営業所を設け、倉庫業、陸上運送業その他これに関連する事業を営む会社である。原告は、昭和三二年一一月、被告会社の傍系会社渋沢陸運(旧商号堂島運輸)に勤務し、同社の本店管理部次長等を歴任して、昭和四九年四月、被告会社調査役に転籍し、昭和五六年六月末日まで同社の従業員として勤務していたものである。

被告会社の就業規則によると、被告会社の従業員は満五五歳に達したとき定年となり、誕生月の末日をもって退職することとされているところ、原告は、昭和五六年六月一四日、満五五歳に達し、定年を迎えた。

2  被告会社の就業規則第二一条によれば、定年となった従業員でも「特に必要と認めたときは、改めて勤務させることがある。」とされ、また、再雇用規則第三条によれば、定年を迎える従業員が予め被告会社に対し再雇用を希望する旨の意思表示をすれば、「本人の能力、健康等を勘案のうえ」再雇用が決定されることとなっている(ただし、労働条件は別途決定される)。原告は、かねて口頭で再雇用を希望する意思を表明していたものであるが、昭和五五年一二月一五日付けで再雇用に関する申請書を提出し、再雇用を希望する旨を書面によっても明示した。これに対し、被告会社は、同月二九日付け書面をもって再雇用しない旨を回答した。

3  しかし、被告会社では、従来、定年を迎えた従業員が再雇用を希望した場合、ほとんど例外なく再雇用をしてきた。前記再雇用規則第三条によれば、再雇用希望者に対し、「本人の能力、健康および勤務状況を審査し、かつ、会社の必要度等を勘案の上、再雇用を適当と認めた者に対して」再雇用をするとされているが、それはあくまでも表向きのものであり、実質はほぼ例外なくその希望者全員を再雇用してきた。再雇用の実態は、再雇用を希望した従業員を一たん被告の関連会社の従業員として雇用したうえ、同人を被告会社に出向させ、被告会社の指揮監督のもとにその業務に従事させるというものであり、その賃金も被告会社において支払っている。たとえば、臼居富由は、昭和五五年に、被告会社の関連会社である渋沢商事株式会社へ出向中に定年を迎えたが、定年後は東栄運輸株式会社に籍を置いて被告会社へ出向し、ドキュメントチームで勤務している。鈴木保雄は、昭和五六年に、被告会社総務課連絡員として定年を迎えたが、定年後は東栄運輸株式会社に籍を置いて被告会社へ出向し、定年前と同じ仕事に従事している。このように、再雇用された者の地位は被告会社の関連会社の従業員ということになっているが、右は全く仮装のものにすぎず、再雇用を希望した従業員は、被告会社の支配従属関係下で定年前と同様に働いており、真実は被告会社との間に労働契約が成立しているのである。被告会社には、このような意味で、定年を迎えた者を再雇用する旨の労働慣行が存する。

4  定年後も特別の理由のない限り再雇用する慣行がある場合には、使用者において将来定年に達する労働者に対し、予め一般的に再雇用の申込みをしているとみるべきであり、これに対して、原告は前記のとおり口頭又は書面によって被告会社に再雇用を承認する旨の意思を表示していたのであるから、原、被告間には再雇用契約が成立している。

それにもかかわらず、被告会社が原告一人に対し、あえて職場の実態と慣行に反して再雇用を拒否する真の意図は、原告が被告会社において、「渋沢倉庫刷新同盟」なる名称の労働組合を結成し、労働者の労働条件の維持、改善に熱心に取り組むと同時に、被告会社の一部経営者の誤った経営姿勢や経営方針を批判し、これを改善する努力を精力的に続けてきたため、被告会社がこれを嫌悪し、この機会に原告を会社から排除しようとするところにあるものと思われる。

5  原告の定年時の賃金は、税込みで一か月二八万円であったところ、被告会社では定年後の再雇用者には定年時の賃金の七割相当額を支給するのが慣行である。

6  被告会社は、昭和五六年七月一日以降、原、被告間に雇用契約が存在することを争って原告の就労を拒否し、且つ、賃金を支払わない。

7(一)  仮に、原、被告間に雇用関係の存在することが認められないとしても、被告会社には、定年退職後従業員が再雇用を希望した場合、希望者全員を再雇用するとの確立された労働慣行が存在する。その場合、配属先は被告会社内部又はその関係会社であり、配属先が関係会社の場合には、被告会社と法人格が異なるところから、形式的には出向若しくは斡旋という形態をとるが、関係会社に対する被告会社の影響力は大きく、被告会社が斡旋すれば必ず採用されるようになっているから、この場合も被告会社による再雇用の一形態にほかならない。このように、被告には原告を再雇用する義務があるところ、原告を再雇用しなかったのは、被告の債務不履行である。このことは、昭和五六年に定年退職した者のうち、再雇用されなかったのは原告だけであるという事実からも明らかである。

(二)  仮にそうでないとしても、被告には定年退職者を関係会社へ斡旋し、採用させる義務があるから、原告を関係会社へ斡旋し、採用させなかったのは、被告の債務不履行である。

8  被告会社には、定年後再雇用者には支給賃金の七割相当額を支払う慣行があり、再雇用期間は満六〇歳までの五年間である。原告の定年時の賃金は一か月二八万円であったから、原告が再雇用されたならば、一か月一九万六〇〇〇円の賃金を五年間取得することができたはずである。そうすると、原告が被告の債務不履行によって被った損害は、少なく見積っても一か月一九万六〇〇〇円の賃金の五年分一一七六万円となる。

9  よって、原告は被告に対し、主位的に、原告が雇用契約に基づく権利を有することの確認及び昭和五六年七月以降毎月二五日限り一か月一九万六〇〇〇円の割合による賃金の支払いを、予備的に、債務不履行に基づく損害賠償として一一七六万円及びこれに対する訴の変更申立書を陳述した口頭弁論期日である昭和五八年四月七日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払いを、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、再雇用規則に関する主張は争うが、その余の事実は認める。再雇用規則第三条は、「会社は、第二条による申請を受けた場合は、本人の能力・健康および勤務状況を審査し、再雇用の可否を可及的速やかに申請者に通知するものとする。」となっている。なお、再雇用規則は就業規則の一部をなすものではなく、人事部の内規にすぎない。

3  同3のうち、臼居富由及び鈴木保雄が定年後東栄運輸株式会社に就職したことは認め、その余は否認ないし争う。

定年退職者で、被告会社に継続して再雇用された例は、最近の六、七年間において皆無であり、原告の主張するような労働慣行は存在しない。再雇用規則上の有資格者で本人の希望があった場合、被告会社で適格と認めた者を関連会社または外部の会社に就職の斡旋をし、採用された例も少なくないが、原告の主張するように、「ほとんど例外なくいったん被告の関連会社の従業員とする」などということは全くない。また、関連会社に就職した者で被告会社に出向し、被告会社が賃金を支払った例もなくはないが、極めてわずかなケースにすぎない。関連会社に就職した者に対する賃金は、右の極めてわずかの出向者以外は、関連会社において支払っている。従って、関連会社の従業員とするのは仮装のものにすぎず、真実は被告との間に労働契約が成立しているとの原告の主張は失当である。

また、臼居富由、鈴木保雄についての原告の主張も事実に反している。臼居富由の定年は昭和五五年ではなく、昭和五四年八月三一日であり、同人が定年時に渋沢商事株式会社へ出向していたことはなく、被告会社横浜流通センターに所属していたし、同人が定年後被告会社へ出向し、ドキュメントチームで勤務している事実はない。鈴木保雄の定年は昭和五六年ではなく、昭和五五年一一月三〇日であり、同人は、定年時は被告会社管理本部総務担当連絡職であったし、同人が、被告会社へ出向し、定年前と同じ仕事に従事している事実はない。

4  同4の主張は争う。

5  同5のうち、原告の定年時の賃金が一か月二八万円であったことは認めるが、その余は否認する。

6  同6は認める。

7  同7の(一)、(二)は否認する。

被告会社が関係会社に定年退職者の就職を斡旋するについては、本人の能力、健康、勤務状況等を考慮し、適格と認めた者を斡旋するのであり、関係会社においても右各事項を検討し、独自の判断で被斡旋者の採否を決するのである。そして、関係会社が被斡旋者を採用すると決定した場合、その労働条件も関係会社と被斡旋者との労働契約で定められるのであり、被告会社の関与できる事項はない。これまで、被告会社の斡旋で関係会社に再就職した者すべてについて、関係会社による前記各事項の検討が加えられているのであり、多数の者が再就職したのはその結果にすぎない。従って、関係会社に対する被告会社の影響力は大きく、斡旋すれば必ず採用されることになっているとの原告の主張は事実に反する。原告については、被告会社で検討した結果、能力、勤務状況、協調性等の点で良好といえないため不適格と判断し、また、被告会社人事部長が関係会社二社に原告の再就職につき意向打診したところ、いずれも原告を受け入れる意思はないとして断られたので、被告会社としての再雇用も、他の会社への就職の斡旋もしないことに決定したのである。

8  同8は争う。

9  同9は争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告は、被告会社には定年退職者が希望すればほとんど例外なく同人を再雇用し、被告会社内部か、関係会社に配属するとの労働慣行が存在するとして、このような場合、被告は定年に達する労働者に対し、予め一般的に再雇用の申込みをしているとみるべきところ、原告は右申込みを承諾したから原、被告間には再雇用契約が成立している旨主張するので、まず、被告会社に右のような労働慣行が存在するか否かについて検討する。

(証拠略)を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  被告会社の就業規則第二一条は、「従業員は満五五歳に達したとき停年とし、誕生月の末日をもって退職する。但し、特に必要と認めたときは、改めて勤務させることがある。」と規定しており、これを受けて、昭和五三年四月一日実施の再雇用規則(以下「本件再雇用規則」という。)は、「会社就業規則第二一条による停年退職者であって会社在籍期間一〇年以上の者」(第一条第一号)等の再雇用につき規定している。その内容は、被告会社従業員であって再雇用を希望する者は、定年退職月の六か月前までにその旨を会社に申し出なければならず(第二条)、会社は、第二条による申請を受けた場合は、本人の能力、健康及び勤務状況を審査し、再雇用の可否を可及的速やかに申請者に通知するものとする(第三条)、とされている。そして、再雇用された者の配属先は、被告会社内部のほか、関係・関連会社を含むものとする(第四条)と定められ、再雇用者の身分は、社内配属の場合は常勤嘱託(一般従業員と同様の勤務条件に服する者)又は非常勤嘱託(会社に常時出勤しない者)、関係・関連会社配属の場合は関係・関連各社の規程による(第五条)とされ、いずれの場合も、再雇用者はすべて会社と別に定める契約を結ぶものとする(第六条)、と規定されている。本件再雇用規則は、昭和四五年一〇月一日から実施されていた旧再雇用規則を改正したもので、就業規則の一部をなすものではなく、人事部の内規にすぎない。

2  被告会社の再雇用の実態をみると、昭和五〇年から六、七年の間に、定年退職者で被告会社に再雇用され、被告会社内部に配属された者は一人もいないし、また、被告会社に再雇用されたうえ、関係・関連会社に出向した者も一人もいない。被告会社の斡旋により関係・関連会社その他の会社(以下「関係会社等」という。)に再雇用された者は毎年数名おり、昭和五六年には、定年退職した者七、八名のうち原告以外の者は被告会社の斡旋により関係会社等に就職した。昭和五四年及び昭和五五年においても、再雇用を希望した者は、全員被告会社の斡旋により関係会社等に就職した。このうち、関係会社に就職した者が約四分の三、その他の会社に就職した者が約四分の一である。そして、関係会社に就職した者のうち半数近くの者は、被告会社内を勤務場所として仕事をしているが、これは関係会社が被告会社から業務委託を受け、その委託業務に定年退職者を従事させている関係上、関係会社の職場が被告会社内となることから生じた事態であって、関係会社に就職した者と被告会社との間に何らかの意味で再雇用契約が存在するからではない。また、後記認定のとおり、一たん関係会社に就職したうえ被告会社に出向してくる例も過去にないではないが、極めてわずかであり、現在では全く行われていない。

3  最近被告会社を定年退職した者の再雇用の状況は、次のとおりである。

(一)  昭和五四年八月に定年により被告会社を退職した臼居富由は、定年時は、被告会社横浜流通センターに所属し、書類配達の仕事に従事していたが、定年後は被告会社の斡旋によりその関係会社である東栄運輸株式会社(以下「東栄運輸」という。)に再雇用され、被告会社の社屋内にある職場で書類配達の仕事をしている。

(二)  昭和五五年三月に定年により被告会社を退職した小林正明は、定年時は、被告会社開発営業本部の営業担当課長であったが、定年後は被告会社の斡旋により関係会社である渋沢開発株式会社(以下「渋沢開発」という。)に再雇用され、ゴルフ場関係の仕事に従事している。

(三)  昭和五五年一一月に定年により被告会社を退職した鈴木保雄は、定年時は被告会社管理本部で連絡員をしていたが、定年後は被告会社の斡旋により前記東栄運輸に再雇用され、被告会社からの委託業務として被告会社内で連絡員の仕事をしている。

(四)  昭和五六年一月に定年により被告会社を退職した大島嘉彦は、定年時は被告会社関東営業本部の営業担当部長であったが、定年後は被告会社の斡旋によりその関係会社である渋沢陸運株式会社(以下「渋沢陸運」という。)に再雇用され、同社の営業及び引越の現場統括の仕事をしている。

(五)  昭和五六年三月ころ定年により被告会社を退職した石崎吉光は、定年時は被告会社横浜流通センターで働いており、定年後は被告会社の斡旋により東栄運輸に再雇用され、被告会社の横浜流通センター内で働いている。

(六)  昭和五六年五月ころ定年により被告会社を退職した中西唯光は、定年後は被告会社の斡旋により渋沢陸運に再雇用され、被告会社に調査役として出向していた。

(七)  同じころ定年により被告会社を退職した滝沢素恵は、定年後は被告会社の斡旋によりその関係会社である阪栄運送株式会社(以下「阪栄運送」という。)に再雇用された。

(八)  昭和五六年一二月に定年により被告会社を退職した立原稔夫は、定年時は被告会社開発営業本部の副本部長であったが、定年後は被告会社の斡旋により関係会社である渋沢開発に再雇用され、同社の取締役に就任するとともに、被告会社に協議役として出向してきていた。

4  被告会社が斡旋した者については、関係会社で採用される例が多いけれども、関係会社がこれを採用するか否かは、関係会社が職務上の必要性や被斡旋者の能力等を検討して、独自の立場で判断することであり、関係会社に再雇用された者の労働条件や勤務場所等もすべて関係会社との間の雇用契約によって定まるのであり、再雇用された者の賃金を被告会社で支払ったこともない。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果(第一、二回)中右認定に抵触する部分は前掲各証拠と対比してにわかに信用し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告会社の就業規則上定年退職者を再雇用すべき義務を被告会社が負う旨の規定は存しないし、本件再雇用規則の運用の実態としても、定年退職者が希望すれば関係会社等に再就職の斡旋をする慣行があることが認められるにとどまり、定年退職者が再雇用を希望すれば、特別の理由のない限り被告会社自身が再雇用したり、被告会社が再雇用したうえ関係会社へ出向させるといった慣行が存在することを認めるに足りず、他にこのような慣行の存在を認めるに足りる証拠はない。原告は、被告会社が再雇用の方法として、再雇用を希望した従業員を一たん被告の関係会社の従業員としたうえ、同人を被告会社に出向させ、被告会社の指揮監督のもとにその業務に従事させる方法を取っているから、定年退職者を一たん被告の関係会社の従業員とするのは仮装にすぎず、真実は被告会社との間に労働契約が成立していると主張するが、前示のとおり、再雇用の方法として、定年退職者を一たん関係会社の従業員としたうえ被告会社に出向させた例は過去に極めてわずかしかなく、現在は行われていないし、また、過去に被告会社に出向させた例についても、一たん関係会社の従業員としたのは仮装のもので、真実は被告会社との間に労働契約が成立していることを認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は理由がない。また、原告は、定年退職者を一たん被告の関係会社の従業員としたうえ、被告会社内の職場で被告会社の業務に従事させた例がある点をとらえて、関係会社に再雇用された者と被告会社との間に再雇用契約が成立していることの根拠とするもののようであるが、これは関係会社が被告会社からの委託業務に定年退職者をあてたため、同人の職場がたまたま被告会社内となっただけであり、被告会社との間に再雇用契約が成立していることを意味しないことは前記認定のとおりであるから、この点についての原告の主張も採用しえない。

以上によれば、原告主張のような再雇用の労働慣行が存在するとは認められないから、これを前提として、原、被告間に再雇用契約が成立している旨の原告の主張は、その前提を欠き、失当である。

三  次に原告は、被告会社には、定年退職後、従業員が再雇用を希望すれば、希望者全員を再雇用するとの確立された労働慣行が存在するから、原告を再雇用すべき義務があるところ、被告はこれを怠ったと主張して、予備的に、債務不履行に基づく損害賠償を請求しているが、そのような労働慣行の存在が認められないことは前記二において認定、説示したとおりであるから、右の主張はその前提を欠き、理由がない。

更に、原告は、被告会社が関係会社に定年退職者の再雇用の斡旋をするという形をとる場合も、被告会社の関係会社に対する影響力は大きく、被告会社が斡旋すれば必ず採用されるようになっているから、この場合も被告会社による再雇用にほかならないと主張し、原告本人尋問の結果(第二回)中には右主張に沿う供述部分もあるが、右供述だけではこれを認めるに十分でなく、他に被告会社が斡旋すれば必ず関係会社で採用されることを認めるに足りる確たる証拠はないから、右主張も失当である。

原告は、また、被告会社は、定年退職者を関係会社に斡旋し、採用させる義務を負うと主張するが、前記二で認定したように、斡旋された者を採用するか否かは斡旋を受けた関係会社の自由に決すべき事項であって、被告会社において被斡旋者を採用させる義務まであることを認めることはできず、被告会社は定年退職者を特段の事情のない限り関係会社へ斡旋すべき義務を負うにとどまるものいとうべきである。

そして、(人証略)によれば、被告会社は原告の職歴等を勘案して、関係会社である渋沢陸運及び東栄運輸の二社に対し再就職の斡旋をしたが、いずれも断わられたことが認められるから、被告は斡旋義務を尽したものと解するのが相当である。よって、原告の予備的請求も理由がない。

四  以上によれば、原告の主位的請求及び予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今井功 裁判官 矢崎博一 裁判官 原啓一郎)

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